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レビューを書いて文章力をあげたいという甘い考えの産物です。

メルヘンの知恵

メルヘンの知恵―ただの人として生きる (岩波新書)

メルヘンの知恵―ただの人として生きる (岩波新書)

私たちは、大人になるとメルヘンを忘れてしまう。
それにはいろいろな理由があり、メルヘンが余りにも非現実的だ、と考えていることもその理由の一つだろう。
子どもの頃は、登場人物になりきって、わくわくしながらお話を聞いていたはずなのに、そういった子どもの心を大人になるにつれて忘れてしまう、ということもあるだろう。

しかしながら、メルヘンこそ、私たちに生きる上での指標を与える本なのである。
というのが、この本の主張(と私は感じました)。

この本の副題であるーただの人として生きるーというのが実はキーワードなのだと思います。
メルヘンにはいろんな人が出てくるけど、その人たちが失敗するとき・成功するときには必ず共通点がある。
それは、自分がなにものであるか、ということをしっかりと認識しているかどうか、ということ。
例えば裸の王様は「私は愚か者であるはずがない!」という思いが先行して失敗してしまったし、逆にチビの仕立て屋は「自分はトリックが上手く使える」と自分の強み・弱みをはっきりと認識していたからこそ、成功した。

この本を読んで改めて大切だと思ったのは、「わたしたちはただの人で、欠点もいっぱいあるけど、そういう自分を受け入れる」ということ。
自分がなにものかだ!と思ったり、自分はただの人だと分かっていても「もっと凄い人になってやるんだ!」という野望を持ちすぎると、うっかりミスをしてしまうよ、というのが実はメルヘンのメッセージ。だからこそ、自分の素直に(但し、これは「嘘をつかない」ということではない)一生懸命目の前のことに取り組んでいかなきゃいけないんですね。

この本を書いた宮田先生は、東大法学部卒で政治学の先生なんです。つまり、別にメルヘンの専門家ではない。なのに、心理学などにも精通しており、まさに「強者!!」。
さらに、彼はクリスチャンであることが有名ですが、引用される本も、ボンヘッファーだったりカール・バルトだったり、挙げ句の果てには聖書だったりと、キリスト教色が強いです。だからといって別にキリスト教を前面に押し出してはいないのですが、一番最後の章のまとめの部分なんかはまさにクリスチャン!という感じです。

メメント・モリと同時にメメント・ドミニという言葉も、大切にしたいと思います。