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レビューを書いて文章力をあげたいという甘い考えの産物です。

日本の統治構造

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

この本全体にわたってのメッセージは、「特定の環境によってはうまく機能した仕組みが、別の環境では機能不全を起こすこともある」ということ。どこの国でも、ただたんに制度を変えればいいわけではなく、多数派民主政や比例代表が成功するのも、「政党の基盤になる社会構造」によって異なるということ。そして、制度変更においては、過去の経緯や、現実の課題に応じて制度選択がなされるべき、ということである。

まず、この本は、現在まで(正確には2007年まで)の政治体制について、非常に詳細に、そして厳密にかかれている。
会社が行う年末調整などの事情から「会社の中に政府機能が入り込んでいる!」と結論づけるのは面白い。
そして、「政権交代がない時代」は、80年代までいかに上手くまわっていたかも示している。
例えば、野党は、ずっと外野ではあったけれども、政策に対する影響力を持っていたこと、自民党が厳しい時は、政治家は「保守系無所属」として当選し、あとから自民党になったこともあること、選挙は政治家個人にとっては厳しい制度だったが、自民党として全体からみると有権者の鬱憤のはけ口となって政権交代圧力をかわしていたことなど、いかにして安定した与野党の対立と共存がなされていたのかが示されている。

但し、当然それは永遠に続くものではない。低成長の今、大事なのは有権者の支持だとして、現状の制度に鋭くメスを入れる。
例えば、内閣提出法案と事前審査の問題は、事前審査があることではなく、その段階ですでに法案の詳細が決まっていること。(だから、人々が「修正しよう!」と思いづらい。だってもうできてるんだもん)
見せ物としての国会審議では「粘着性」(法案は修正とかされるわけじゃないけど「引っかかる」)がそのSHOWの一端をになっているが、それでは意味はない。

また、各党は、政党としての自律性は低く、個人の後援会などが主体になってくる。つまり、国会議員は「氷山の一角」(政党の一員)という意識が希薄なのである。こういった政党の弱さが政策の体系性の弱さを産み、結果的に大規模改革を難しくしているのだ。

そこで海外に目を向けてみる。
例えば、アメリカの、大統領が強い大統領制は、最初から予定されていた形式なのではない。
そして公務は、誰もが責任感を持ちさえすれば遂行でき、社会の価値観に見合った公務遂行が望ましい、と考えている。
フランスは、議会が強いから議員が強く、政党の力は弱まっていった。複雑な制度を持っているのだが、大統領制と議院内閣制のいいところを併せ持っている。
韓国では強権体制に逆戻りしやすい
などなど。

その上で日本の今後に目を向ける。
現在は、権力分立制を貫徹させることは難しいので、せめて政治と行政、企画と実施という概念をもってその二つをしっかり分ける(政治家と行政官で)のが大事だとか。
そして、小選挙区制は、野党勢力の強力・統合を促す、調整が複雑化したことで、政府・与党二元体はむしろ強くなる、すべての問題が、マニフェストによって与野党対抗する必要はない。ただ、トレードオフの関係にある政策など政治的な決断が必要な分野は積極的に選択肢を示すべき、国民一人一人が所属政党を決めるべき、という。

結局、
民意の集約と、責任と権力の一致といった大原則の上で、その枠にはまらない問題を処理して行く
のが大事だということ。

現在の日本の政治は、表面的には、この著者の意見にしたがっているようだ。
しかし、実体は伴っているのだろうか。

例えば、「各個人が所属政党を持つべき」という主張がなされているが、現在は各党の政策にはっきりした際はみあたらない。政党間にしっかりした差異が産まれないと、所属政党を決めることは難しいだろう。
 
また、有権者の権力強化(特にマニフェストなど)ということが主張されているが、現在の日本はむしろ「衆愚政治」が行われているように感じる。
「(いわゆる)国民の主張」というものが本当に正しいのか、ということはまさに政治家が判断すべき問題である。
もちろん著者も「世論調査に惑わされるな!」とはいっているものの、選挙によって代表が選ばれる以上、人々の動向が重要だということもわかる気がする。

どうすれば日本の政治はもっとよくなるのか、
とか
どうして、日本の政治はこんな風になっちゃってるのか、
ということを考えるきっかけとしてはベストな一冊だと思います。

240ページぐらいの新書ですが、結構読みやすくて一日ぐらいで読んじゃいました♪