花埋み
- 作者: 渡辺淳一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/03
- メディア: 文庫
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荻野吟子という、日本で最初の西洋女性医師の話です。
彼女は、もともと頭がいいお嬢さんだったのですが、
結婚生活のなかで重大な性病をうつされます。
それがきっかけで女医を目指し、
本当に、ものすごい苦労を繰り返しながら、なんとか女医になります。
女医としては、産婦人科をメインにやってます。
その後社会活動家になるんですが、
なんと10歳以上年下の男性と結婚し、
彼の夢を追うために北海道へ移住。
しかしながら結局失敗を繰り返し、
夫が死んだあと、亡くなります。
子供は養女が一人。
ものすごい、壮絶人生ですが、
彼女の人生は決して、理解できないものでも、「偉人」の人生でもありません。
女医になりたい!という思いも、彼女の経験を考えれば当然だし、彼女の能力からみても不可能じゃない。
むしろ、当時の女性たちは、自分たちの局部を男性にみせることは嫌だったらしく、
若い娘なら別にみせてもいいし、いろいろお話もできる、ということで人気を得ます。
だけど、ある日気付くんです。
「医療じゃだめなんだ」って。
どんなに治療しても、治療を受け入れてくれる環境や考えをもっていないと、
なかなかすすまない。
だって、治療って本人の「治そう!」という意思が大事だから。
そんななかで、「キリスト教」に惹かれていきます。
別にそこまではいいの。
だけど、クリスチャンの若い男性と結婚してから、彼女は一気に彼女のキャリアの階段からおりてしまう。
北海道にいったあと、数年のブランクの後に新たに札幌で開業しようとしたら、もうあなたの技術はふるいから無理だ、といわれる。
北海道では、旦那と「クリスチャンの理想郷」を作ろうとするけど結局失敗。
けど、私は、それでも良い気がする。
もちろん、キャリアを追い続ける人生は素敵だと思う。素晴らしいと思う。
でも一方で、好きな人と、「自分の人生を楽しむ」という人生も素晴らしいと思う。
どちらがいいとか悪いとか、そんなことは誰も言えない。本人でさえもね。
だけど、後者を選択した吟子が、なんだか愛らしいと思ってしまいました。
吟子はすごい人だけど、決して「すごい人格者」だったわけではない。
男を毛嫌いしているようなところがあるし、
やっぱ気が強いから、周りに対してすごく厳しい。
けど、そういう吟子ってすごくリアルで、
しかも恋をしたりすると案外とってもピュアだから
愛しいとさえ思えました。
ただ、あえてクリスチャンとしての視点をいれるなら、彼女が「立派なクリスチャン」だったかどうかはよくわからないよね。聖書は読んでたみたいだけど。
最後に、面白かった海老名弾正の一言を(別にこの人は好きじゃないけど)。
「初代には十人並みの人物はクリスチャンになりえない。抜きん出て優れた人物か、抜きん出た凡人か、あるいは抜きん出た変物でなければ万難を排し、周囲の批判も顧みないでクリスチャンとはなりえない」
だから、過去のクリスチャンを褒めたたえるのもおかしいんだろうな、きっと。
もともと、そういう「変人」なんだもん。
なんちって。
今も変人ばっかりだけどね笑